ある小説家の話
彼はイタリア料理が大好きだった。毎週、その当時住んでた大井町駅の賃貸アポートから歩いてすぐのところにある小さなイタリアンレストランに通っていた。店の名前は「ラ・ピッツァ」。店主は本場のナポリ出身で、石窯で焼くピッツァが絶品だった。彼はいつもマルゲリータとビールを注文して、店主と話しながら食べていた。
ある日、彼は店に入ると、いつもの席に座っている女性に目を奪われた。彼女は金髪のロングヘアに青い瞳、白いワンピースに赤いカーディガンを着ていた。彼女はピッツァを一切れ口に運びながら、本を読んでいた。彼は彼女が読んでいる本の表紙を見て驚いた。それは彼が書いた小説だった。
彼は小説家としてデビューしたばかりで、まだ無名だった。自分の本を読んでくれる人がいるということに感動した彼は、思わず声をかけてしまった。
「すみません、あの本、僕が書いたんです」
彼女は本を閉じて、彼を見上げた。彼女の瞳は驚きと興味に満ちていた。
「本当ですか?あなたがこの本の作者さんですか?」
「ええ、そうなんです。偶然にもこの店に来て、あなたが読んでいるのを見て、声をかけさせてもらいました」
「すごいですね。私はこの本が大好きなんですよ。物語も登場人物も魅力的で、引き込まれます」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
「どうしてこの本を書こうと思ったんですか?」
「実は、僕もイタリア料理が大好きで、この店によく来るんですよ。店主と仲良くなって、イタリアの話を聞くうちに、イタリアに行ってみたくなりました。でも、今は旅行に行けないし、仕事も忙しいし、なかなか叶わない夢なんです。だから、小説の中でイタリアに行ってみようと思って書き始めました」
「なるほど。それでこの本のタイトルが『イタリアン』なんですね」
「そうです。主人公は僕と同じくイタリア料理が好きで、夢見るイタリアに旅立つんです。でも、そこで色々な出会いや事件に巻き込まれて……」
「それ以上は教えないでください。私はまだ読み終わってないんです」
「あ、すみません。ネタバレしちゃいますね」
「でも、作者さんとお話しできて嬉しいです。私もイタリア料理が好きで、この店によく来ます」
「そうなんですか?それじゃあ、仲間ですね」
「そうですね」
二人は笑顔で見つめ合った。店主は二人の様子を見てニヤリとした。
「お二人さん、どうぞ仲良くしてくださいね。僕のお店は恋人同士にピッタリなんですよ」